カテゴリ:essay( 2 )
アポトーシス
f0106839_11363232.jpg


うららかな春、
みごとな薄桃色の花を枝いっぱいにひらめかせていた桜の木も、
長くなった夜と、そのとばりを吹き抜ける冷たい風に押し切られるように、
赤くなった葉を枝から散らす。
神社の玉砂利は、ほどなく錦彩のじゅうたんで敷き詰められるだろう。

アポトーシス。

個体をよりよい状態に保つための、細胞の自殺。

落葉は、次の春に命をつなげるための、植物が行う自己破壊のプログラムである。
木々は葉を落とすことによって放出されるエネルギーを抑え、
次世代への子孫を育む新しい寝床のために冬眠に入る。
アポトーシスが行われるのは、植物の体だけではない。
動物の体内でも、確実にそれは起こり、日々新しい細胞と入れ替わる。
そういう生と死が混沌と溶け合う中で、私たちは命を保っている。

紅葉に命の最後のきらめきを見、
落葉にその終わりを投影してうっすらと哀しさを覚えるのは、
私たちの内側で起こっているから目に見えない、
でも確実に訪れる個体としての終末を、
木々の四季の営みに感じるからなのかもしれない。

アポトーシス。

次世代に続く終わり。
だからこそ美しい、と、
心から思える日が来るのだろうか。

深まる秋の中で、燃え上がるように呼吸する葉を、
ただ、眺めている。
[PR]
by nasuka00 | 2006-11-09 14:17 | essay
桜を求めて長距離ライドデビュー
f0106839_17575321.jpg 午後遅くから雨になるという予報だったので、仕事は休みだけど早起きしてサイクリングに出かけることにした。愛車ルイガノとの、初遠乗りである。理屈を知ったばかりのギアチェンジにも不安があるし、連続走行したときの自分の姿勢や疲れ具合もチェックしたい。そう思って、選んだのは11キロほど山に向かって進んだところにある桜の名所であった。初挑戦には手ごろな距離だろう。高校のとき、ここから自転車で通って来る友人がいたが、片道50分ほどかかると言っていたのを思い出す。事前の調査では、桜並木は「咲き始め」だという。先日送られた来たばかりのTimbuk2のバックパックに、デジカメ、iPod shaffle、ちょっとした携帯食、そしてペットボトルのお茶を詰めいざ出発。

 川沿いの土手を行くルートもあると思ったが、往路を迷いたくないので、いつも車で通る国道を選んだ。片側一車線の狭い国道だが、通勤ラッシュでもない限り、車の数もさほど多くはない。路線バスも、1時間に一本しか通らないような道だ。しばらく進むと歩道も整備してあって、歩行者にも自転車にもめったにお目にかかることなく快適に走ることが出来た。車では通りなれた道だが、スローな自転車を交通手段として選ぶと、風景が違って見えるから不思議だ。車では見ないようなところに目が行くからだろうか・・・。スピードが違うと、注意の視点も違ってくる。車だと、路肩を進む歩行者やバイクなどに目をやるし、前の車との車間にも気を配らなければならない。時速50キロは、何よりも安全を優先する視点だ。これが自転車でせいぜい15キロほどの世界になると、なんとなく脇見が可能になる。気をつけなければならないのはほぼ自動車だけ。横を過ぎる家々の門の中まで目が届くようになり、おや、キャベツが植えてある!家庭菜園??こっちの家の梅の木はみごとだなぁ・・・おばちゃんたち、楽しそうに井戸端会議してるねぇ・・・などなど、人々の日常に注意が向くのである。山に向かって走るので、ちょっとしたヒルクラム気分も味わうことができ、その後のダウンヒルではその気持ちのよかったこと。車のようにエンジンブレーキが効かないのが多少不安ではあったけど(笑)


f0106839_2227472.jpg  30分も走ると、そろそろ目的地付近に出た。橋を渡って、ここからは土手の道だ。車がすれ違うことが出来ないほどの狭い道だが、この道に沿っていくと、例の桜並木に出る。5分も行かないうちに、うっすらピンクに染まった桜の木々が見えてきた。右手には川が流れる。その遠くには深い緑に覆われた山々が見える。その稜線の下に、子どもが遊んだブロックさながら家々の屋根が散らばる。典型的な日本の農村の風景である。先ほど通ってきた国道は、この土手からは数ブロック先に走っているので、車の音はほとんど聴こえてこない。時折小さなダム様の段差が造ってある川の、その滝になっている場所で激しくなる水の音と、のどかな鶯の声だけが耳に心地よく届く。桜祭りを開催しているとは言え、確かにまだまだ咲き揃わず、しかも平日だと言うことであれば、ほとんど人の往来もない。スケッチブックも持ってくるべきだったなぁ・・・と、ちょっと後悔した。

 自転車のいいところは、いつでも好きなときに停車することができ、速度も風景に合わせてのんびりと切り替えることが簡単な点だ。美しく開いた花を見かけると自転車を止め、デジカメを取り出して撮影する。川の流れに桜が映える気持ちのいい場所では、速度を緩め、その風情を左右存分に眺めながらゆったりと走る。なんだか、人生ってゆとりと脇見が必要なんだなぁ、とわけもなく思った。ゴール地点を目指してカーナビをセットして、一生懸命走っているかのような私たちの毎日。壁にぶつからないよう、交差点を間違えないよう、そして、歩行者を巻き添えにしないようそれだけに気を配りながらひたすら走っていく。確かに、当たり障りなく、事故を起こさず過ごせたとしても、ちょっとした日常の中にあるたわいのない会話や、目を向ければ広がっている美しい風景に気付かずに過ごしてるんじゃないかって、ちょっと考えてしまう。ペダルを踏みながら、こんな雑念に思いをめぐらせることができるのも、スローで自由な自転車の醍醐味なのかもしれない。

 大きな、何か工場のような建物の横を通ったときに、なんだか懐かしい香りが漂ってきた。甘ったるい、シロップを思わせるような濃厚なバニラ系の香り・・・昔、これと同じ香りをよくかいだものだが、一体なんだったんだろう???思い出せないことに歯がゆさを感じながら通り過ぎると、川沿いの土手を降りたところに、ちょっとした河川敷の遊技場があった。初老のご夫婦が、階段に腰掛けてお弁当を広げている。平日だし、春休みだし、河川敷には誰もいないのだが、話をするでもなく寄り添って座っているその二人の背中を見ていると、ふと、目の前で繰り広げられる少年野球の光景が思い浮かんでくるようだった。それほど、二人はその景色になじみ、自然であった。ベビーカーを押してゆっくり歩く女性、土手下の畑で仕事に精を出す老夫婦・・・皆急がず、でも確実にそこにいる。
少しピンクに色付いた桜の土手の、スローな時間。

 並木道を端まで走り、方向転換して、もと来た道をゆっくりと引き返した。逆から見ると、また違う景色が広がっている。
 車や三輪車と違い、二輪車であるオートバイや自転車はバックができない。逆方向に進むためには、頭を180℃方向転換させ、ペダルを踏まなくてはならない。そんなシーンも、不可逆的な人生と似ているかもしれない。後戻りしているようでも、それは前進に他ならない。同じ景色の中を走ることはない。また、先ほどかいだ匂いが漂ってきた。あ、そうだ!この匂い・・・今度はわかった。粉で作るインスタントのプリンだ。牛乳と混ぜて、冷蔵庫で冷やして固める、あれ。ボールの中で混ぜるとき、この香りがするのだ。子どもの頃よく作った、あのカラメルの香り・・・。

f0106839_17585594.jpg 帰り道は、川沿いの土手を選んだ。この川に沿っていくと、私の家よりちょっと東側のあたりに出る。国道よりも距離があるけど、ゆっくり走れそうだからこっちの方がよさそうだ。土手に出ると、すぐに目の前が開け、右手に雄大な大山が見えてきた。まっすぐ伸びる川を眺めながら走るのは最高に気持ちがいい。自動車道と重なる場所にも、かなり広い歩道が造ってあって快適に走ることができる。ここからは、ちょっとスピードを上げてみよう。でも、時々お犬さまの落し物が転がっているので、足元には充分ご注意を!!(飼い主よ、ルールはきちんと守りタマエ) 時折、スポーツバイクに乗ったサイクリストとすれ違ったが、皆エイリアンのようなヘルメットをきちんとかぶり、動きやすそうなフィットネスタイプのジャージを着て颯爽と走っている。某コラムニストによる本には、こういう具合にサイクリスト同士がすれ違うとき、挨拶を交わしたり、時間があればどちらからともなく自転車を止めて、お互いの旅について情報交換したりするらしいが、本格的サイクリストたちはチラッとこちらを見るものの、ん??という顔をして走り去ってしまう。ジーンズの上にベージュのベネトン製トレンチコートを羽織り、黒いバックパックを背負ってクロスバイクに乗る私など、彼らの目には不届き千万に映るだろう。長距離を走ると、やはりお尻が痛い。長距離ライドに慣れていないせいで、お尻の皮が薄いのかもしれない。パッド入りの下着の必要性がわかったような気がする。サドルも、私のオシリに合わせるならもう少々広めの方がよさそうだ。こうやって乗りながら、段々と自分に合った自転車ライドのスタイルを作り上げることが出来るのだろう。
 
 本格的サイクリストへの道は、まだまだ険しいのであった。
[PR]
by nasuka00 | 2006-04-05 18:02 | essay



なかなか旅に出られませんが、旅行に行ったつもりで一筆。
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
カテゴリ
以前の記事
お気に入りブログ
Memo
最新のトラックバック
クロスバイクがカッコいい..
from 折畳自転車で行こう!![折畳..
折畳自転車で行こう![折..
from 折畳自転車で行こう![折畳自..
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧